・【高橋是清『高橋是清自伝』】子安信夫 さん
・【『古今和歌集』】忘れ草 さん
・【セルマ・ラーゲルレーヴ『ニルスのふしぎな旅』】らら さん
・【渡部昇一『続 知的生活の方法』(講談社現代新書)】ダヴィ さん
・【ポール・シャピロ『クリーンミート』】佃 和憲 さん
・【安岡正篤『安岡正篤一日一言』】のらじ さん
・【大久保寛司『あり方で生きる』】てらぽん さん
・【E・F・シューマッハー『スモール・イズ・ビューティフル』】島村嘉男 さん

高橋是清『高橋是清自伝』

子安信夫 さん
読んでいて、痛快きわまりない自伝である。こういう波乱万丈の人物が、明治期から戦前期の日本をつくり、動かしていたことを知ると、「人材の多様性」がいかに重要かを思い知らされる。
若き日にアメリカに留学に行くが、身売りされて奴隷として働かされる。帰国すると、英語力を活かして大学南校の教員になるが、茶屋遊びの放蕩にすっかりはまり込んで学校を退職し、一時は芸妓の下働きをする。
その後、唐津で再び英語教師となるが、当時の酒量がなんと一日三升。酒で身体を壊してもいる。その後、東京に帰ってからも官職についたり、学校教師(ついには校長)になったりするが、やがて文部省、農商務省の官僚として活躍。農商務省の外局として設置された特許局の初代局長に就任し、日本の特許制度も整えている。
その後、ペルーで銀山事業に携わるが、ほぼ詐欺に引っかかったような顚末で大失敗。その責任を一身に負って、家まで失うが、周りの人に助けられ、当時建設中だった日本銀行本店の建築事務主任に。それから日露戦争の戦費調達に奔走するまでが自伝では語られる。
だが、こんな奔放な生き方の根本に、とても仕事ができる人物像があることは、自伝の端々から見えてくる。その仕事ぶり、交渉ぶりは、いまでも大いに参考になる。さらに中公文庫版の解説には、これだけ詳細が語れるのは、是清本人がおびただしい数の懐中日記を書いて、几帳面に残していたからだとも書かれている。まさに、できる人間の痛快さなのだ。
こんな時代だからこそ、すべての日本人が愛読すべき自伝だ。
(編集部より)
「事実は小説より奇なり」といいますが、高橋是清の生涯は、まさにそれです。最近では、「できる人間の痛快さ」を讃えるのとは正反対のニュースも見聞きします。できる人間に心からの喝采を送り、痛快さを覚える社会にしていくことが大切だと思いました。(達)

『古今和歌集』

忘れ草 さん
『古今和歌集』に、とても惹かれています。まずは「仮名序」の素晴しさです。
「やまとうたは、人の心を糧として、よろづの言の葉となれりける」「花に鳴く鶯、水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける」「力をも入れずして、天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の仲をもやはらげ、たけき武士の心をもなぐさむるは歌なり」
など、美しい言葉の数々。歌集ですから、当然といえば当然ですが、ここまで詩的に美しく、日本の歌のあり方や歴史を表わしていることに胸打たれます。この『古今和歌集』が1000年以上も前に成立していて、日本の歌の伝統もしっかりと受け継がれていることは、本当に素晴らしいことだと思います。
『古今和歌集』には、歌が1100首収められています。詳しい読解は及びもつきませんが、眺めているだけでも美しい日本語ばかり。詠んで気に入った歌に印をつけておくと、後日再読したときに、「この歌が心に響いたんだ」と、われながら驚きを覚えたりもします。生涯、繰り返し味読できることも、とてもありがたいことと思います。
(編集部より)
最近は、短歌ブームともいわれます。和歌の伝統が、いろいろな形で、何度でも浮かび上がってくることは、日本文化の「強さ」の一面でしょう。美しい日本語に、日々接することは、とても贅沢なことだと思います。「仮名序」の日本語も、とても強くて美しいです。(達)

セルマ・ラーゲルレーヴ『ニルスのふしぎな旅』

らら さん
スウェーデンのノーベル賞作家セルマ・ラーゲルレーヴによって、100年以上前に書かれた作品です。福音館書店の古典童話シリーズを寝る前に子どもたちに読み聞かせながら、スウェーデンをニルスと共に旅しています。
一つひとつの旅の話に、深い人間愛と優しさ、生き生きと描かれる自然と生き物への深い眼差しに、心がゆさぶられます。
後半の、がちょう番のオーサとマッツという幼いきょうだいの話には、この話だけで何冊ぶんもの価値があるような気がします。大きな館の話も静かな感動の余韻があります。  スウェーデンの美しい自然の描写、自然にまつわる伝説などもたくさんあり、一冊の本を越した世界を作り出しています。
大人になったいま、毎日に追われて、疲れてしまったり、辛いこともあります。だからこそ、この本に巡り会えて、とても喜びを感じています。これからの人生においても、何回も手にとる気がします。
(編集部より)
私は世代的にNHKで本作がアニメ化されたのを見ており、原作もその頃に一部を読んだ記憶があります。子供の頃に読む名作は、いま思い返すと、人間としての感性を養うのにとても大切な意味があると思います。読み聞かせをされているとのこと、素晴らしいことと思いました。(達)

渡部昇一『続 知的生活の方法』(講談社現代新書)

ダヴィ さん
渡部昇一さんの『知的生活の方法』は大ベストセラーですが、それが「総論」だとすると、『続 知的生活の方法』は「実践編」のような位置づけになろうかと思います。書いてある内容は、『知的生活の方法』よりも具体的です。「自分の蔵書をつくりあげる楽しみ」「インスピレーションより、機械的に書きはじめることが重要」「自由な知的生活者になるために必須なこと」などが、豊富なエピソードとともに、縦横無尽に記されます。
著者がイギリスを訪れた折のエピソードで、自分の蔵書をつくる楽しみを持っていた時代のイギリスの老教授世代(本書が発刊された1979年当時の60歳以上)のほうが、若い世代よりもジェントルで、ユーモアがあり、微笑が絶えることがないとあります。牽強付会といえば、それまでですが、やはり常に知的な環境に身を置くことが大切ではないかと、印象深く心に刻まれました。私自身、ほほえみに満ちた人生を送れるならば、ぜひそのような知的生活に身を置きたいものだと、本書をきっかけに心から思うようになりました。
現在、『続~』は絶版で、新刊としては買えないようですが、あえて今回は、より多くの人に知ってもらいたいという思いも込めて、この『続~』を挙げました(Amazonなどで古書で買えるようです)。もちろん、『知的生活の方法』もお奨めです(こちらはいまでも新刊で買えます)。
(編集部より)
いろいろな先生方にお会いしておりますと、本当に皆さんジェントルで、ユーモアに富んでいると痛感します。「自由な知的生活者は、ほほえみに満ちた人生を送れる」というのは、けっして牽強付会ではないように思います。私自身も、諸先生方の境地に一歩でも近づきたいと思います。(達)

ポール・シャピロ『クリーンミート』

佃 和憲 さん
『クリーンミート』ポール・シャピロが私の1冊です。培養肉の話題で、ちょうど10MTVでも講義が行われています。読む前には、培養肉はゲテモノとの印象を持っていましたが、家畜が原因となる伝染病や食中毒、飼育環境や食肉工場などを目にしたときの動物に対するやましさの解決策として、実現化されるべき技術ではないかという考えに至りました。
(編集部より)
培養肉というと、私もテンミニッツTVの講義を取材する前は、なんとなく違和感を覚えていましたが、竹内昌治先生のお話をうかがって、大いに考えをあらためました。小泉武夫先生が説く「日本食は世界一のベジタリアン食」というお話も大いに考えさせられます……。(達)

安岡正篤『安岡正篤一日一言』

のらじ さん
人生を変えたと言ったら大げさになるだろうが,昔,盛岡に出張にいったとき、駅の本屋で自己啓発書というつもりで購入した読んだ本が印象に残った。それを喫茶店で読みながら,「そうだよなあ」と心の中で納得しながら読んだものである。安岡正篤の本である。それ以来、彼の本は随分読んでいる。「座右の銘」とまではいかないが,手の届くところには置いてある。  ここで皆さんに紹介したい本は,その中でも『安岡正篤一日一言』(致知出版社)である。実は今はこの本,厠に置いているのだが決して蔑んでいるわけでもなく,そこは落ち着いた空間でもあり,読みたいとき、読んで進んでゆくのである。
『論語』などの古典もいいが、小生にとっては,どうも堅いので息が詰まってしまう。1年365日あるが,その年はわからなかったが翌年はなんとなく経験からくるのか感じるものが出てくるのである。決して毎日読んでいるわけでもなく,厠で自分を睨んでいる怖い親父というかそんな本であり,気になったとき手にするわけである。
また時に叱られたいと思うときもあって,そんなとき,手にするのである。それは気力が低下して転びそうになったとき,人間関係で悩んでいるとき,調子のいいとき,2~3ページも読めば、それなりに対処の仕方というか諭されてくるものがあるから不思議である。
本の文体は一昔前のようであるが、現代人にもなぜかすんなり入ってくる。いわゆる格言集とは違ってバラバラ視点なところもなく,すべてが人間の道につながっているので,把握しやすく,それが自然と己の血となり肉となっているようだ。
(編集部より)
言葉が、そのときそのときの自分の心に応じて、別の表情や意味をもって教えてくれる。本当にそういうことがあると思います。繰り返し読むことは、大きな実りをもたらしてくれます。「怖い親父のような本」があることは、本当に幸せです。まさに座右の書です。(達)

大久保寛司『あり方で生きる』

てらぽん さん
日本中から引っ張りだこの講演家の寛司さんが、講演や日常、あるいはコンサルティングの現場から見出した原理原則をわかりやすくまとめられた内容になっています。
読めば読むほど、そして、読んで実践してみることで慧眼に気づかされます。
「指を自分に」
「相手にはそうする理由がある、それなりの」
など、短いけれども本質を突いたゴールデンフレーズに、日常を省みて唸らずにいられません。
1話1話はとても短く読みやすいので、繰り返し、日常を引き当てながら読むことで、深みが出る不朽の名著としてお勧めします。
(編集部より)
「指を自分に」「相手にはそうする理由がある、それなりの」という言葉、とても響きます。たしかに、そうだなあと、しみじみ思いました。自己中心主義的な心にとらわれてはいけないと思いつつ、ついつい……。そういう心に気づかせてくれる本は貴重です。(達)

E・F・シューマッハー『スモール・イズ・ビューティフル』

島村嘉男 さん
学生時代に読んだ本である。原書は1973年に発刊され、大量消費型の資本主義に警鐘を鳴らし、大きな話題を呼んだ。「われわれの間違った生き方というのは、第一に意識的に貪欲と嫉妬心をあおり、法外な欲望を解き放ってしまったことにある」と説き、貪欲と嫉妬心を捨てて英知を取り戻すことを訴える。そして仏教経済学、適正規模、適正技術(中間技術)などの必要性を唱え、原子力発電など危険な大規模技術の罪深さを強調する。
その訴えには、今から見ると、やや古びているように思えるものもある。「途上国には、最新技術ではなく中間技術を導入して、多くの人に仕事を与えなければならない」という考えも、本当に正しかったかどうか。また、テンミニッツTVの柿埜真吾氏の講義などを見ていると、「それでもなお、自由主義経済が結局のところは最善なのではないか」という思いにとらわれる。
だが、世界の多くの人々の志向が「スモール・イズ・ビューティフル」の方向に向かっていて、ESG投資などの方向に舵が切られていることは、本書のメッセージの意義を強く示しているようにも思う。また、「適正規模」の議論は、グローバル化した巨大企業が跋扈する現在、より鮮烈に響く。
ずっと心の片隅に残り、考えの1つの座標を提起してくれる書である。
(編集部より)
ふと、山本直純さんが「大きいことはいいことだ」と歌う、昔の有名なお菓子のCMを思い出し、その放送年を調べたら1967年でした。世界の常識が激変するとき、その「発火点」にある考え方を理解しておくと、世の中の動きの方向性が見渡しやすくなりますね。(達)


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